持分の定めのある医療法人から基金拠出型医療法人への移行
平成19年の医療法改正により新たに医療法人化する場合には基本的には持分の定めのない基金拠出型(以下、基金拠出型法人)が主流になってます。他方、医療法人前に設立した持分の定めのある医療法人は、経過措置により今後も存続可能です(以下、経過措置型医療法人)。
では、今後、基金拠出型法人へと移行する経過措置型医療法人が増えていくのでしょうか?
結論から言うと、そのような医療法人はほとんどないでしょう。なぜなら、基金拠出型法人への移行において出資持分を基金拠出型法人に贈与したとされ、ほとんどの場合には贈与税が課されてしまうからです。この点について、少し詳しくお話しましょう。
確かに、基金拠出型法人は拠出者が出資持分を持つことはないので新たに法人成りする場合は贈与税はかかりません。
これに対して、経過措置型医療法人から基金拠出型法人への移行の場合はほとんど贈与税が医療法人にかかることになるのです。
これは基金拠出型法人への移行は出資持分の放棄を伴い、それは留保利益の帰属が出資者から基金拠出型法人へと変わることを意味します。
相続税法上は基金拠出型法人へ留保利益が贈与されたと捉え、相続税法66条4項が適用されます。この条項によると「負担が不当に減少」した場合には贈与税課税がされるのですが、「負担が不当に減少」していないとされる場合は極めて厳しい要件をクリアしなければなりません。
例えば、要件の一つとしては医療法人の「運営組織が適正」であること(相続税法施行令33条3項1号)があげられますが、それには理事の定数が6人以上で監事の定数が2人以上であることや役員等にはその地位にあることのみに基づいて給与等を支給しないことなどが求められます(法令解釈通達、平成20年7月8日付「持分の定めのない法人に対する贈与税の取扱い」)。
経過措置型医療法人の現状から言ってとてもハードルの高い要件です。
そうなると、経過措置型医療法人は留保利益が少ない場合ぐらいでしか考えられず、あえて贈与税の課税リスクを負うとは考えられません。そうであれば、経過措置型医療法人は、基金拠出型法人に移行することなく、従来のとおりの相続税対策をしていくと考えられます。